高評価インディーゲーム『Mina the Hollower』の開発で用いられた800ページ超のデザインドキュメントが、ゲーム開発者コミュニティで話題となっています。これを発端に、ゲーム開発における「ゲームデザインドキュメント(GDD)」の運用方針について、現役開発者らがさまざまな意見を交わしていることが分かりました。
発端は開発者コミュニティへの投稿
『Mina the Hollower』は、『ショベルナイト(Shovel Knight)』で知られるYacht Club Gamesが開発したアクションアドベンチャーゲームで、5月29日にリリースされました。Steamでは約5200件のレビューのうち88%が好評の「非常に好評」ステータスを獲得しており、6月9日時点で50万本の売上を記録しているとのことです。
この作品について、Riot GamesやBlizzard、Electronic Artsなどでの勤務経歴をもつゲームデザイナーのDan Felder氏が6月15日、Redditの「r/gamedesign」コミュニティに投稿をおこないました。同氏によれば、Yacht Club GamesのゲームデザイナーAlec Faulkner氏との通話で『Mina the Hollower』のデザインドキュメントを尋ねたところ、800ページ以上にも及ぶ資料が示されたといいます。
共有されたスクリーンショットには、「攻撃は“ハート半分”ではなく“7ダメージ”を与える」といった基本仕様や、サイドアームの細かな挙動などが事細かに記載されていました。Yacht Club Gamesでは、試行錯誤しながら実装するのではなく、紙とホワイトボードを用いて最初から徹底的に練り上げる開発プロセスを採用しているとのことです。
開発者から寄せられた多様な見解
この投稿には複数の開発者から回答が寄せられました。カードゲーム制作者のProxyDamage氏は、ゲーム開発をレシピにたとえ、個人開発であれば膨大なドキュメントは不要だが、大規模チームでの開発では必要となると述べています。また、Yacht Club Gamesの手法は、後から作り直すコストが高い作品であるからこそ機能しているとの推察や、紙上でのプレイテストに長けたデザイナーがいてこそ成立するという意見も見られました。
『The Falconeer』の開発者Tomas Sala氏も返信し、構造的に複雑なゲームでは文書化の必要性がある一方、自身はこの10年間ゲームデザインを紙に書き出さず、イテレーション重視の手法で開発を進めていると説明しています。
過去にも論じられてきたテーマ
デザインドキュメントの必要性については、過去にもさまざまな開発者が言及してきました。元Insomniac GamesのLiz England氏が2014年に提唱した「ドア問題(The Door Problem)」では、ドア一つをとっても膨大な検討要素が存在し、それを各役職に伝えるためのドキュメント作成がデザイナーの役割の一つとして挙げられています。
またCD Projekt Redは、『サイバーパンク2077(Cyberpunk 2077)』の開発中にドキュメントが8000ページにおよび保守が後回しになった経緯を明かしており、現在開発中の『ウィッチャー4(The Witcher 4)』などでは反省を踏まえたドキュメント管理を進めていると語られていました。一方、『Europa Universalis 5』の開発リードJohan Andersson氏は、デザインドキュメントが創造性の阻害や主体性の低下を招くとして、その必要性に疑問を投げかける見解を示しています。
作品のジャンルや開発規模、組織構造によって適した手法は異なるとみられ、ドキュメントをどう扱うかもまたゲームデザイナーの役割の一つといえそうです。
参照元: AUTOMATON